多機能性が魅力の新食物繊維 寺尾啓二 著 文庫サイズ・48頁 まえがき —— メタボ、コレステロール、アレルギーの改善に α(アルファ)—シクロデキストリン(Cyclodextrin)という名は、あまり耳にしたことがないかもしれません。
シクロデキストリン、あるいはサイクロデキストリンのCycloは環状、dextrinはオリゴ糖という意味ですので、日本語では「環状オリゴ糖」とも呼びます。
このオリゴ糖という名なら、馴染みのある方も多いことでしょう。
オリゴ糖は砂糖(ショ糖)などと同様に糖質の仲間であり、ローカロリーの甘味料ですが、ダイエット効果が期待できる、腸の健康に有益に働くなどの理由で、広くその名が知られているからです。
通常のオリゴ糖は、鎖状をしています。
その両端がつながって環のような形になったオリゴ糖が、シクロデキストリンです。
甘みはなく無味です。
環の大きさの違いにより、α、β、γの三種類に分かれます。
最も環が小さいのが、α—シクロデキストリンです。
シクロデキストリンという名自体は、確かにそれほど一般には知られていませんが、私たちの生活にかかわる、いろいろな分野で利用されています。
「包接」という、とてもユニークな性質をそなえているためです。
詳しくは本文に譲ります。
これに加えて、最近では、α—シクロデキストリンの食物繊維としての機能性にも注目が集まってきています。
「第六の栄養素」と呼ばれる食物繊維には、水に溶ける「水溶性食物繊維」と水に溶けない「不溶性食物繊維」とがあり、それぞれの機能性には違いがあることがわかっています。
α—シクロデキストリンの大きな魅力は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方の機能を併せ持つ多機能性にあります。
この点が、従来の食物繊維とは違って「新食物繊維」と呼ぶにふさわしい、優れたところです。
α—シクロデキストリンについては、さまざまな動物実験やヒトに対する臨床試験などにより、いくつもの健康効果が明らかにされています。
本書では、それらについてご紹介したいと思います。
●世界での安全性の評価 日本では、「天然にも存在するから安心」という判断に基づき、α、β、γいずれのシクロデキストリンも食品への添加についての制限はありません。
これに対して、JECFA(世界食品添加物合同専門家会議)は、αとγは「一日の許容摂取量(ADI)を特定しなくてよい安全な物質」、βは「一日の許容摂取量は五mg/kg」と安全性を評価し、多くの国々は、これを参考にしています。
また、EUでは、αとγは、安全な食品を意味する「Novel Food」、βは「食品一kg当たり一gまで使用可」と定め、アメリカでは、FDA(アメリカ食品医薬品局)が、広範囲の用途で「GRAS(安全とし市販を認めるもの)」にαとγを認可、βには食品香料キャリアーに限定して認可しています。
αとγは安全性が高いものの、βは、血液中の赤血球を壊す溶血作用や腎臓障害を引き起こす可能性が報告されていることから、若干の制限つきというのが、世界での評価といえます。
なお、シクロデキストリン化学修飾体も、毒性や局所刺激性は極めて低いことが知られており、副作用はなく安全性は高いと考えられます。
●ω3系不飽和脂肪酸は体に良い油 不飽和脂肪酸は健康増進のために有効で、生理活性物質の原料として、またHDL善玉コレステロールの増加に関与する脂肪酸として、植物性油脂や魚油に多く含まれています。
一般的には、植物性油脂や魚油を多く摂取し、動物性油脂の摂取を控えることが健康増進には良いとされています。
特に、DHAやEPAなどのω3(n—3)系不飽和脂肪酸には、ガン細胞の増殖を抑制する効果があります。
プロスタグランジンE2がガン細胞の増殖を促進するのですが、ω3系不飽和脂肪酸はこのプロスタグランジンE2の産生を抑えることに関与しており、DHAがガンの予防や治療の効果を高めることが多くの臨床的研究で明らかにされているのです。
目 次 —— 〈コラム〉分子サイズの世界を操るナノテクノロジー 第1章 α—シクロデキストリンって何 ・三種類のシクロデキストリン ・包接作用とその応用による機能 ・大量生産化および安全性の評価 第2章 「新食物繊維」の優れた機能 ・食物繊維は第六の栄養素 ・体内での食物繊維の働き ・「新食物繊維」としてのα—CD 第3章 「メタボ」を予防・改善する ・メタボリックシンドロームとは ・肥満を改善するダイエット効果 ・中性脂肪やコレステロールを減らす ・飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸 ・悪玉脂肪酸類の選択的排泄作用 第4章 アレルギー疾患を改善する ・抗アレルギー作用の発見 ・アレルギー疾患改善効果のしくみ ・アレルギー性鼻炎、気管支喘息の改善 ・アトピー性皮膚炎の緩和 ・α—CDサプリメントの活用 【ハート出版ふるさと文庫】新機能性食物繊維α−シクロデキストリン